高校 / 情報Ⅰ / 50分

生成AIのしくみ:次のことばを確率で選ぶ

架空の6文から「次の語」の回数と確率の表を作り、サイコロで文を生成します。データの偏りと確率による選択から、もっともらしいのに事実でない文(ハルシネーション)が生まれる理由と、温度の働きを確かめます。

授業時間
50分
対象
高校(情報Ⅰ)
形態
4人組→個人
端末・AI
使わない
机にカードを並べて文を作り、1人がサイコロを振ろうとしている3人の高校生

この授業でできるようになること

  • 生成AIが、次の語の確率を求めて1語ずつ選ぶしくみを、表とサイコロで再現できる。
  • データの偏りと確率による選択から、ハルシネーションが生まれる理由を説明できる。
  • 温度を変えると出力のランダムさが変わることが分かる。

準備

端末と生成AIサービスは使いません。

授業の流れ(50分)

  1. 0–5分

    導入:予測変換の候補はどう決まる?スライド2・3

    スマートフォンの予測変換を例に、「次に来そうな語」を選ぶしくみを予想させる。生成AIも基本は同じだと示す。

    生成AIは、文の意味を人と同じように分かって書いているのでしょうか。今日は小さなモデルを自分たちで作って確かめます。

  2. 5–10分

    学習データを読むスライド4・5

    架空の6文を配り、語の区切り(/)を確認する。「の」の次を例に、回数と確率(4/6、2/6)の出し方を示す。

  3. 10–20分

    活動1:次の語の表を作るスライド6

    4人組でワークシート1の表を完成させる。「は」の次の語の回数・確率・サイコロの目を書く。確率の合計が1になるかを確かめさせる。

    同じ文が3回あるのは、いろいろなところに同じことが書かれているからです。数えるときは3回と数えます。

  4. 20–30分

    活動2:サイコロで文を作るスライド7

    班に1個のサイコロ(なければ1〜6の数字カードを引く)で、1人3文を作り、ワークシート2に記録する。データに書かれた事実と同じなら○、ちがえば×をつける。

    AI役のみなさんは、文が本当かどうかは考えずに、サイコロの目だけで選んでください。

  5. 30–38分

    共有:データの偏りとハルシネーションスライド8〜10

    班の○×を集計して板書する(多くの場合、×が○より多くなる)。「あおば町の名物はりんごだ」が正しい文より約3倍出やすいことを確率で示し、三つの理由(確率で選ぶ・データの偏り・事実は確かめない)にまとめる。

    このモデルは、うそをつこうとしたのではありません。データにある語のつながりを、確率どおりに選んだだけです。

  6. 38–44分

    温度と長い文脈スライド11・12

    温度の表を読み、低いと同じ答え、高いとめずらしい語が出やすいことを確かめる。長い文脈を見ると正確になることと、実際の生成AIとのちがいを短く伝える。

  7. 44–50分

    振り返り:出口チケットスライド13

    ワークシート4に、ハルシネーションが生まれる理由と、生成AIの文を使う前に自分がすることを書く。

板書のまとめ

黒板に残すこと

  • しくみ次の語の確率を出し、1語ずつ選ぶ
  • データの偏り多い話題(みどり市)に引っぱられる
  • 温度低い=決まった答え/高い=めずらしい語

もっともらしい ≠ 正しい。事実は、出どころで確かめる。

表の答えと計算

学習データは架空の6文です。「はじめ」は文の始まりを表します。

今の語次の語と回数確率
(はじめ)みどり市 4、あおば町 24/6(約67%)、2/6(約33%)
の名物 4、花 24/6、2/6
はりんご 3、さくら 1、みかん 1、ひまわり 13/6(50%)、各1/6(約17%)
その他みどり市・あおば町→の、名物・花→は、りんごなど→だ、だ→。それぞれ100%

このモデルで作られる文

  • 作られる文は 2(町)×2(名物・花)×4(りんご・さくら・みかん・ひまわり)=16通り。データの事実と合うのは4通りだけ。
  • 事実と合う文が出る確率は 4/6×4/6×3/6 + 4/6×2/6×1/6 + 2/6×4/6×1/6 + 2/6×2/6×1/6 = 68/216 = 17/54(約31.5%)。残りの約68.5%は、データに書かれていない文になる。
  • 「あおば町の名物はりんごだ。」は 2/6×4/6×3/6=1/9(約11.1%)、正しい「あおば町の名物はみかんだ。」は 2/6×4/6×1/6=1/27(約3.7%)。まちがいの文が3倍出やすい。みどり市の文がデータに多いため。
  • サイコロの結果は班によってばらつく。×が少ない班があっても、クラス全体の集計で確率に近づくことを確かめる。

温度の計算

この授業では、温度を T として「回数の 1/T 乗」に比例する確率で選ぶ形で示します(実際の生成AIでは、各語の点数を温度でわってから確率に直す方法が使われます。回数の対数を点数とみなすと同じ形になります)。

  • T=1:3:1:1:1 → りんご 50%、ほか各 約16.7%
  • T=0.5:回数を2乗して 9:1:1:1 → りんご 75%、ほか各 約8.3%(1/12)
  • T=2:回数の平方根で 約1.732:1:1:1 → りんご 約36.6%、ほか各 約21.1%
  • T を0に近づけるといちばん多い語だけ(100%)、とても大きくすると4語が同じ確率(各25%)に近づく。

発問と予想される反応

  • 「同じ文が3回あるのはずるい」:実際のデータでも、よく知られたことは何度も書かれる。その分だけ確率が高くなることを確かめる。
  • 「長い文脈を見れば、いつも正しくなる?」:この小さなデータではそうなるが、データにないことを聞かれると、もっともらしい語を選んでしまう。データそのものがまちがっていることもある。
  • 「実際の生成AIもこんなに単純?」:語ではなく「トークン」という単位を使い、長い文脈の関係を大量のデータから学んだ巨大なモデルで確率を出している。ただし「次を確率で選ぶ」という基本は同じ、と伝える。

詳しい情報

困ったときの対応
  • サイコロがない:1〜6の数字を書いた紙を袋から引く、または学校で認められた乱数アプリを使う。
  • 確率の計算で手が止まる:分数のままでよいと伝え、「6回のうち何回」と言いかえる。
  • ×の文を「AIのうそ」と表現する生徒:モデルには「だまそう」という意図はなく、確率どおりに選んだ結果だと整理する。
  • 時間が足りない:温度(スライド11)は次の時間の導入に回せる。
評価の観点
観点十分満足おおむね満足
知識・技能次の語の回数・確率の表を正しく作り、サイコロで文を生成できる。温度による変化を説明できる。「は」の次の語の確率を正しく求められる。
思考・判断・表現データの偏りと確率による選択を結びつけて、ハルシネーションが起きる理由を説明している。ハルシネーションの理由を一つ挙げている。
主体的に学習に取り組む態度生成AIの文を使う前に、出どころで事実を確かめる具体的な方法を書いている。生成AIの文をそのまま信じないと書いている。
この教材のモデルと画像について

この授業のモデルは、直前の1語だけから次の語を選ぶ、とても単純なもの(バイグラムモデル)です。実際の生成AIは、文をトークンという単位に分け、長い文脈を大量のデータから学んだ大規模なモデルで次のトークンの確率を出します。しくみの「考え方」を体験するための教材であり、実際のAIの精度をこのモデルで判断しないよう伝えてください。

学習データの6文、「みどり市」「あおば町」と名物・花は架空です。場面のイラストは生成AIで作った架空のものです。

発展:コンピュータで試す

学習指導要領(情報Ⅰ)は、モデル化とシミュレーションについて、コンピュータを使う場合と使わない場合の双方を体験させることを示しています。この授業の後に、同じ表をプログラム(乱数で次の語を選ぶ処理)にして1000文を作り、○の割合が約31.5%に近づくかを確かめる発展ができます。

個人情報・年齢条件の注意
  • この授業では生成AIサービスを使いません。発展で実際の生成AIを使う場合は、学校で認められたサービスと、年齢条件・保護者の同意の条件を授業前に確認する。
  • 生徒の名前や個人の情報を入力しない。
保護者・管理職への説明

この授業は、紙とサイコロで生成AIのしくみを体験し、AIがもっともらしいのに事実でない文を作る理由を確率で理解する授業です。端末や生成AIサービスは使いません。ご家庭でも、AIの答えを見たときに「どこで確かめられる?」と話題にしていただくようお願いします。

根拠と参照資料

高等学校学習指導要領(平成30年告示)情報Ⅰの内容(3)「コンピュータとプログラミング」は、事象をモデル化する方法、シミュレーションを通してモデルを評価し改善する方法の理解と、目的に応じたモデル化やシミュレーションを行い結果を踏まえて考えることを示し、内容の取扱いでは、コンピュータを使う場合と使わない場合の双方の体験と、モデルの違いによって結果に違いが出ることに触れるとしています。内容(1)は、情報技術が人や社会に果たす役割と及ぼす影響の理解を示しています。文部科学省のガイドラインは、モデルの性質上、誤った出力(ハルシネーション)を完全に防ぐことは極めて難しいとしています。

版と利用条件

画像:場面のイラストは、生成AIで作った架空のものです。学習データの6文と地名も架空です。

教材版:1.0(ATM-HS-GENAI)/公開日:2026-10-02/一次資料の確認日:2026-10-02。

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