中国の「塾、宿題規制」を考える

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先日、中国政府が「学習塾の規制」「小中学校での過度な宿題規制」を発表しました。

具体的には、学習塾は営利目的不可、非営利団体として登録し直しが必要となり、新規の事業免許の発行や、株式上場も禁止となります。
料金は政府が管理するとのことで、ようは無料か、非常に安い金額になるということです。
これには過剰な学歴主義による教育費の高騰が背景にあり、中国政府としては1年以内に「効果的に」、3年以内に「大幅に」家計負担を削減することを目標にしているとのことです。

なぜ中国政府は、一般市民の家計負担をこれほど気にしているのか?というと少子化問題のためです。
元々中国と言えば「一人っ子政策」が有名だと思いますが、その一人っ子政策の結果として、今後中国は強烈な少子化問題が起こると言われています。
その少子化対策のための措置が、今回の塾規制と言われています。

そもそも、なんで「一人っ子政策」なんてことをやっていたのでしょうか?
毛沢東の時代は「ガンガン産め産め!」ということをやっていたはずです。
この人口政策に関する中国の歴史をざっくりまとめると以下の感じです。

1950年-1970年ぐらいから1970年前半
毛沢東「人が増えれば経済が発展して、欧米に勝てる!みんな産め産め!」

1979年(毛沢東死後)-2016年
鄧小平「人口増えすぎて社会インフラ整備も、食料確保も全然間に合わない!もう産むな!二人以上産んだら罰金な!」
※罰金額は個人差があるようですが、2013年の報道では、北京市の場合、二人目を産んだ夫婦には、平均年収または実収入の多い方から3-10倍の金額と記載があるようです。
現金で払えない場合は家財道具をすべて没収されたり、かなり厳しい取り立てがあったようです。また、公務員であれば解雇されたりと、罰金以外でも社会的な制裁もありました。
そのため、二人目を妊娠していることがわかると、無理やり病院につれていかれて堕胎させられる例も多かったとのことです。
ただし、年代や地方によってはかなり規制が緩い場所もあったようで、兄弟がいる中国人も結構います。

この「一人っ子政策」によって、家計の負担が減り、子どもに教育費や嗜好品にお金が使われることが増え、中国の急速な経済発展のきっかけになったと言われています。
ただし、これは短期的に金余りの状態が出来ただけであって、出生率が大きく減っていくことで将来的には「少子高齢化社会」が訪れることが必須の両刃の剣です。


2016-2021

習近平「経済発展したし、二人目もオッケーにするわ!」


食糧難も収まり、世界的にも大国となった中国はやっと30年以上続いた「一人っ子政策」を終わらせます。
ただし、それでも出生数の減少は歯止めが効きませんでした。
「産んで良いよ」って言ったら増えるかというと、そうではなかったのです。
長きにわたる一人っ子政策によって、家計において、一人の子どもの養育費に対しての負担比率は非常に高い状態になっていました。
そのため「これ以上産んでも育てられないから、産まない」という状況になってしまい、出生数は減り続けたのです。
「一人っ子政策」の副作用がこんな形でも出てきたという事ですね。

以下は中国の出生数です。
特に近年急激に減っているのがわかりますね。

これには中国政府も慌てたようで、今年に入り、対策に乗り出したという感じですね。


2021年5月

習近平「おい!もっと産めよ!なんなら3人目もOKやで!」



2021年7月

習近平「なんで産まんねん!え?家計負担が原因やと!?よっしゃ、塾を無料にしたらええやろ!」



という流れで今回の規制となっています。
2017年に北京大学中国教育財政科学研究所が実施した調査によると、中国での教育費が家計に占める割合は「小学生の場合は10.4%、中学生は15.2%、高校生は26.7%」らしいです。
確かに、これでは二人以上は厳しすぎますね。

また、家計負担以外にも、学校の宿題の量がとんでもなく多いことも社会問題になっており、それも規制に含まれております。
中国の小中学生は、毎日宿題に平均2.8時間かけており、これは世界一の長さです。
(日本は0.76時間なので3.7倍になりますね)

あまりにも多いので、78%の家庭で親がつきっきりで指導や添削を行っています。
さらに、中国では教師の権力が強く、毎日宿題リストが親のメールに送られ、宿題の出来が悪いと教師は親に注意します。
親は自らの監督不行き届きを謝り、さらに熱心に子どもに教育するようになる、という流れがあります。
なぜこんなに教師の力が強いかというと、それも激しい学歴社会、競争社会のせいで、子どもが教師から悪い評価を受ける事を過度に恐れているからです。

つまり、宿題の問題は子どもだけも問題ではなく、親の労働力も必要になってしまっているということです。
そりゃ規制も必要になるというわけです。

しかし、この「宿題規制」は今回が初めてではなく、最近では2020年にも中国教育省は「教師が保護者に対して宿題の完成や添削を要求する違反行為に対しては厳格に対処する」と表明しており、それ以外でも事ある毎に言及されている問題ではありますが、結果的にそれほど改善されていないという現状があります。

以上のように、過剰な「教育熱」によって今回の大規模な規制が出ることになったということですね。

日本でも子どもの教育費が与える家計負担や、それに伴う少子化は他人事ではありません。
むしろ日本の場合これといった対応をしないまま、ずるずると「少子高齢化」の真っ只中に突っ込んで行っています。
ここまで来ても特に対策を講じる訳でもなく、出口は見えません。

中国は「日本の二の舞にはならんぞ」と、次々とこのような対策を打ち出しています。
かなり強引ではありますが、どこか羨ましくもあります…