本当に「褒めて育てる」だけでいいのか?

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昭和のころは「厳しく育てる」という教育方針が主流でした。


平成になるころには「褒めて育てる」が主流になりました。


そして、それから20年以上が経った今、「本当に褒めて育てるだけで良かったのか?」と改めて考えるフェーズにきていると思います。
「褒めても褒めても、全然成長せえへんやん…」
そんな時も多いのではないでしょうか?

少し偏った内容ですが「ほめると子どもはダメになる榎本 博明 (著)」などでも指摘されているように、
「褒めたら、そこで満足してしまって、頑張れない子」や「褒めてばかりで育てたことによって、傷つきやすく、意思が弱い子になった」という話も聞きます。

そもそも、「こうすれば良い」みたいな絶対的な法則など、存在しないのが教育だと思います。
この子の状況、性質にあわせて、こちらも対応を変えていくべきと思います。

その指針となるものに「アメリカの精神医学者ロバート・クロニンジャーのパーソナリティ理論(略してTCI理論)」という有名な理論があります。
https://www.institute-of-mental-health.jp/thesis/pdf/thesis-06/thesis-06-04.pdf

TCI理論では、人格を形成する因子として「4つの気質」と「3つ性格」に分類しており、どの傾向が強いかによって、教育方針を考えるべきと思われます。

まず前提条件の「気質」と「性格」についてですが、
「気質」は、外部からの刺激によって、どう反応するか?という行動特性のことで、先天的な要因が非常に大きいとされています。
脳科学的にいうと、セロトニンなどの脳内物質の受容体の数が生まれつき個人差があるため、それに関連しているとされています。
褒められた時に対する反応も、この気質が大きく影響します。

①新奇性追求
②損害回避
③報酬依存
④固執

の4つに分類されています。



反対に「性格」とは、経験などによって徐々に形が作られていくもので、成人になるころにある程度出来上がるものです。

①自己志向
②協調
③自己超越

の3つに分類されています。

この「気質」と「性格」の関係性については、
"気質が自己洞察学習行動すなわち性格の発達を動機づけるが、それによって性格が変容し、今度は逆に、性格が気質を調整する"
とされています。



今回の話は、子どもをどう教育するか?という事なので、主に「気質」に関する話になります。
この気質によって「褒めて育てるべきなのか?」という指針にしよう、というわけです。

繰り返しになりますが、「気質」は
①新奇性追求
②損害回避
③報酬依存
④固執
の4つの特性で形成されているとされ、基本的にはすべての特性をみんなが持っていて、どれが強い傾向にあるか?という話です。
(どれかが極端になると、何らかの人格障害を有するされています)

①新奇性追求
新奇性追求とは、要は好奇心の強さです。
このスコアが強ければ、新しい物に挑戦することが多く、チャレンジ精神に溢れますが、一方で我慢が苦手でいきあたりばったりになりやすい傾向があるようです。
また、反対に低い場合は、考えや行動が保守的になりやすいようです。
このスコアが高い子は、基本的には自ら進んで学習していくタイプなので、「褒めるかどうか」の影響は薄いタイプと言えます。
壁にぶつかった時にサポートして上げることだけにして、あまり大人が横からあーだこーだ言って、邪魔をしないことが大事かと思います。

②損害回避
損害回避とは、要は心配性や怖がりの因子です。女性に多いとされています。
自制心が強く、自分が持っているものがなくなることに危機感を覚える傾向があるようです
最初に報酬を与えて、テストの点数が悪かったりしたら、その報酬を取り上げるようにすると、なくなることを恐れてがんばるようで、「褒めて育てる」という効果が低いと思われます。
「他の子どもに物を貸してあげられない子」は、この損害回避の傾向が強い子と言われます。

③報酬依存
報酬を求める気持ち(承認欲求)が強いタイプです。
このスコアが高い人は情に厚く、やさしい反面、他人に対して依存する傾向が強かったりします。
反対に低い人は客観的で冷静な反面、冷たい人に見られがちです。
また、報酬と言っても、必ずしも金銭などの物質的な報酬ではなく、褒められたり、喜ばれたりすることを指します。
本人の内発的な動機によって始めた事に対して、金銭などの外発的な報酬は、逆にやる気を失う原因になりますので、注意が必要です。(アンダーマイニング効果)
基本的は常に達成感を感じられるように、難しい目標を立てるのではなく、段階を踏んで、小さい目標をこなすことが良いようです。
「褒められた方が育つ」典型的なタイプです。

④固執
一つの事をやり続けられる因子です。
このスコアが高いと、努力家で諦めにくいですが、1つのことに拘りすぎてしまう傾向もあります。
この固執は、元々は報酬依存の下位尺度の一つであったこともあり、報酬依存と同じように「褒められた方が育つ」タイプと考えられます。


自分の子どもがどの傾向が強いか、パッと浮かびますでしょうか?
もし浮かばないようであれば、まずは子どもを「観る」ことを増やして見たほうが良いかも知れません。
子どもが普段何をしているか?どういった反応をするか?よく観察することで、どのような傾向が強いか見えてくると思います。
「うちの子はゲームばかりしている」という親御様は多いですが、「どんなゲームか?」や「そのゲームのどこに夢中になっているのか?」ということまで観ている人は残念ながらあまりいません。

何よりも子どもを理解することが1番の近道だと思います。
さらには子ども自身が「理解してもらっている」と感じられれば、強固な信頼関係が生まれます。
「褒めるべきかどうか」なんていう小手先の教育テクニックは、強固な信頼関係の前ではどうでもいいレベルの話だと思います。

ぜひ、TCI理論などもうまく活用しながら、子どもとの信頼関係を築いていきましょう。