子どもが「なんで?」を連発するときがあります。
なんで空は青いの。
なんで魚は水の中で息ができるの。
なんで宿題はあるの。
最後の質問では、保護者の方も一緒に遠い目になるかもしれません。
でも、この「なんで?」は、学習にとってかなり大事な力かもしれません。
今回は、5歳から7歳の子どもを対象にした研究をもとに、「質問する練習」が好奇心や学びとどう関係するのかを見ていきます。
どんな研究だったのか
2025年12月にnpj Science of Learningで公開された論文では、5歳から7歳の子ども103人を対象に、質問する練習が科学への好奇心や学習にどう影響するかを調べています。
研究の流れはシンプルです。
子どもたちは、質問することを促されるグループ52人と、ただ話を聞いておくことを促されるグループ51人に分けられました。
そのうえで、2週間にわたって、1対1の科学レッスンを8回受けました。
扱われたテーマは、植物、磁石、宝石などです。
その後、子どもたちが新しい科学情報をどれくらい価値あるものとして選ぶか、質問をどれくらい出すか、科学テストでどれくらい答えられるか、といった点を測りました。

| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 5歳から7歳の子ども103人 |
| グループ | 質問を促す群52人、よく聞くことを促す群51人 |
| 期間 | 2週間 |
| レッスン | 1対1の科学レッスンを8回 |
| 測定 | 新しい科学情報への価値づけ、質問数、粘り強さ、科学テストなど |
一番はっきり差が出たのは「新しい情報を選ぶ力」
この研究で一番はっきり差が出たのは、子どもが新しい科学情報をどれくらい価値あるものとして選ぶか、という結果でした。
研究では、子どもに「すでに知っている科学情報が入った封筒」と「新しい科学情報が入った封筒」を選んでもらいました。
新しい情報を選んだ回数の中央値は、質問を促されたグループが7、よく聞くことを促されたグループが5でした。
この差は統計的にも認められ、論文では p = 0.002、FDR補正後 p = 0.010 と報告されています。
p = 0.002 は、「もし本当は両グループに差がないと仮定した場合に、今回のような差、またはそれ以上の差が偶然に出る確率」が約 0.2% という意味です。
一般的には p < 0.05 なら統計的に有意とされるので、0.002 はかなり強めの有意差です。
FDR補正後 p = 0.010 は、複数の項目を同時に検定したことを考慮して、偶然の当たりを減らすために補正した後の値です。
研究ではたぶん、「新しい情報を選ぶ力」以外にも、複数の行動や指標を比べていたはずです。
たくさん検定すると、どれか1つくらいは偶然有意に見えることがあります。
FDR補正はそのリスクを抑える処理です。
補正後でも p = 0.010 なので、基準の 0.05 を下回っています。
つまり、
「いろいろな比較をした中で見つかった差ではあるが、補正してもなお信頼できる差として残った」
と読めます。
つまり、質問する練習をした子どもたちは、「知らないことを知りたい」と感じる方向へ少し動いた可能性があります。
これは、学習ではかなり大事なポイントです。
問題集を前にしたとき、「知らないから嫌だ」となるのか、「知らないから見てみたい」となるのか。
この差は、見た目以上に大きいです。
教室でいうと、同じプリントを見ても、片方はそっとページを閉じ、もう片方は「ちょっと見てみるか」と開く、くらいの違いです。
| 測定されたこと | 結果の要点 |
|---|---|
| 新しい科学情報への価値づけ | 質問群の中央値7、傾聴群の中央値5。p = 0.002、FDR補正後 p = 0.010 で有意。 |
| 質問をたくさん出す力 | 主効果としては有意差なし。質問群だけが単純に質問数を大きく増やした、とは言えない。 |
| 粘り強く取り組むこと | 主効果としては有意差なし。 |
| 科学テスト | 全体の主効果としては有意差なし。ただし事前知識が少ない子どもでは、質問群に学習面の利点が見られた。 |
「質問すれば全部伸びる」ではない
ここは大事なところです。
この論文は、「質問を練習すれば、質問数も、集中力も、テスト点も、全部きれいに伸びます」と言っているわけではありません。
むしろ、結果はもう少し丁寧に読む必要があります。
質問を促す練習で、全体としてはっきり差が出たのは、新しい科学情報への価値づけだけでした。
一方で、質問を出す数や、粘り強さ、科学テストの成績については、全員に同じような大きな主効果が出たわけではありません。
ただし、もともとの科学知識が少なかった子どもに注目すると、質問を促されたグループのほうが、好奇心や学習面でより良い結果が見られました。
論文では、事前知識が少ない子どもにおいて、質問群のほうが科学テストで高い成績を示したことも報告されています。
これは、キノコード的にはかなり納得感があります。
最初から知識が多い子は、聞くだけでも頭の中でつなげられることがあります。
でも、まだ知識が少ない子は、質問によって「どこを見るか」「何を比べるか」がはっきりするのかもしれません。
質問は、分からない場所を照らすライト
質問するというのは、ただ手を挙げることではありません。
自分がどこまで分かっていて、どこから分からないのかを見つける作業です。
たとえば、プログラミングでエラーが出たとします。
「動きません」とだけ言うと、問題の場所はまだぼんやりしています。
でも、「ボタンを押すと、点数は増えるのに、画面の表示だけ変わりません」と言えたら、かなり前進です。
質問が具体的になるほど、頭の中でも問題が整理されていきます。
質問は、先生のためだけにあるのではありません。
自分の頭の中を照らすライトでもあります。

AI時代こそ、質問力が大事になる
最近は、AIに聞けば、すぐに説明や答えが返ってきます。
これはとても便利です。
ただし、質問があいまいだと、返ってくる答えもあいまいになります。
「Pythonを教えて」と聞くより、「小学生向けに、変数をゲームの点数で説明して」と聞くほうが、使いやすい答えに近づきます。
AIは、質問の質にかなり左右される道具です。
だからこそ子どもたちには、「答えをもらう力」だけでなく、「問いを作る力」を育ててほしいと思います。
今回の研究から言えるのは、質問する練習が、少なくとも新しい情報に向かう姿勢を育てる可能性がある、ということです。
AI時代の学習では、この姿勢がとても大事になります。
答えをもらって終わる子と、答えを見たあとに「じゃあ、これはどうなる?」と次の質問を作れる子では、学びの深さが変わってきます。
キノコード的にはどう考えるか?
キノコードでは、質問のうまさは才能だけでなく、練習で伸ばせるものだと考えています。
最初から良い質問ができなくても、大丈夫です。
むしろ最初は、「なんか変」「よく分からない」「ここで止まった」くらいで十分です。
そこから少しずつ、「何をしたら」「何が起きて」「本当はどうなってほしいのか」を言葉にしていきます。
これは、プログラミングのデバッグとよく似ています。
バグを直す力は、エラーを怖がらずに観察するところから始まります。
質問も同じです。
分からないことを恥ずかしがるより、「どこが分からないのか」を見つけるほうが、ずっと学びになります。
家庭や教室でできること
大人にできるのは、子どもの質問に全部すぐ答えることだけではありません。
「いい質問だね」と受け止める。
「どこが気になった?」と聞き返す。
「予想してから調べてみよう」と促す。
このくらいの小さな声かけでも、質問は育ちます。
特にプログラミングでは、答えを教える前に「どこまで動いた?」と聞くのが効果的です。
子どもが自分で状況を説明できるようになると、次のエラーにも少し強くなります。
質問する子は、先生に頼っているだけではありません。
自分で学ぶ入口を、自分で作っているのです。
まとめ
この研究では、質問を促された子どもたちが、新しい科学情報をより価値あるものとして選ぶ傾向を示しました。
対象は5歳から7歳の子ども103人、期間は2週間、1対1の科学レッスンは8回です。
一番はっきりした差は、新しい情報への価値づけで、質問群の中央値は7、傾聴群の中央値は5でした(p = 0.002、FDR補正後 p = 0.010)。
一方で、質問数や粘り強さ、科学テストの全体的な主効果は限定的でした。
だからこそ、「質問すれば何でも伸びる」と読むのではなく、「質問する練習は、特に知らないことへ向かう姿勢を育てる可能性がある」と読むのがよさそうです。
そして事前知識が少ない子どもでは、学習面での利点も見られました。
プログラミング学習でも、良い質問は問題を整理する力になります。
「なんで?」は、学びの邪魔ではありません。
むしろ、学びのエンジンです。
参考
Question asking practice fosters aspects of curiosity in science content in young children
PubMed: Question asking practice fosters aspects of curiosity in science content in young children
